「それ、なんで流行ってるの?」は、若者の消費行動やブームの裏側を解剖してきたマーケター原田曜平が、ヒットの正体を“共感の連鎖”として解き明かす一冊だ。著者は街頭調査とSNS分析で得た膨大な生声を用い、ブームには①共感を呼ぶ物語②みんなで楽しめる参加性③拡散装置としてのSNS④低リスク・低価格⑤自己肯定感を高める承認機能という五つの共通項があると説く。
たとえばTikTokは「自分も作れる/試せる」参加性と「短尺で失敗しても損しない」低リスクが相乗し、一気に火が付いた。マリトッツォやチルい音楽は、コロナ禍で委縮した若者の“優しくて映える癒やし”ニーズに刺さった事例だ。さらに著者は、マイルドヤンキー、量産型女子、Z世代男子の“無風志向”など細かなクラスタを提示し、彼らを動かすキーワードは「バズより安心」だと指摘。
企業は従来の派手な広告ではなく、彼らが「友達に薦めやすい小さな物語」を設計せよ、と提案する。読後には、次の流行がなぜ起こるかを街角の何気ない会話からも嗅ぎ取れる“アンテナ”が身につく。さあ、あなたも明日のヒットを先読みする目を手に入れよう。本書が面白いのは、単なる現象解説にとどまらず、著者自身が失敗したキャンペーンや、広告会社では語られない現場の葛藤まで赤裸々に綴っている点だ。
流行を「作る側」の奢りを反省し、「拾う側」に回った瞬間にヒット確率が跳ね上がったという体験談は、マーケターだけでなく新商品企画やSNS担当者にも刺さる。さらに終章では、生成AIとバーチャルインフルエンサー時代のトレンド予測も提示。
「好きなものが多すぎて選べない若者」に対し、AIが“推し”を提案する未来では、「偶然より必然」をどう演出するかが鍵になるという。読み終えたとき、あなたは“流行の裏側を覗いた共犯者”になっているはずだ。ページを閉じる頃、世界が違って見え、あなたも流行予報士になるよ。